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| ■004■ 施設入所痴呆性老人のロビーにおける相互作用特性に関する研究 ――痴呆性老人間の成立・不成立のソシオグラムを中心として―― 日本老年社会科学会発行.『老年社会科学』19(1).P39〜P47.1997年10月. |
天田城介(AMADA Josuke)
脱稿:1997.05 最終更新日:2004.04
※本稿は1995年1月に立教大学社会学部に提出した卒業論文「痴呆性老人の集まりの構造」の一部をもとに執筆しました。
【全文】(以下、草稿です)
施設入所痴呆性老人のロビーにおける相互作用特性に関する研究
――痴呆性老人間の成立・不成立のソシオグラムを中心として――
A Study on the Social Interactions of the Aged with Senile Dementia in Public Space of a Nursing Home
―Centering upon“Agreement-Disruption”Sociogram―
●天田 城介
Josuke Amada
日本学術振興会特別研究員
Research Fellow of the Japan Society for the Promotion of Science
和文抄録
本研究は,特別養護老人ホームの痴呆性老人入所者のロビーにおける成立・不成立の相互作用をソシオグラムの形にまとめ,その相互作用特性を分析した。方法としては,ロビーにおける痴呆性老人の集まりに焦点を置き,参与観察法を中心とした直接観察法によるデータから相互作用特性の分析を行った。観察の結果,相互作用には4つのパターンが見られ,そのうち前二者を「成立の関係」として,後二者を「不成立の関係」として21×21の非対称のマトリックス上に集計し,「成立の関係」を牽引(attraction),「不成立の関係」を反発(repulsion)として対応させたソシオグラムを完成させ,痴呆性老人間の相互作用特性の構造を分析した。結果として,多くの痴呆性老人は安定的な相互作用を営んでおり,また,痴呆性老人間の相互作用は数名を中心にした構造を形成していることが明らかになった。
したがって,本研究対象の痴呆性老人の公的空間における相互作用は,多くの場合安定的で,秩序のある相互作用であることが明らかになった。
キーワード
痴呆性老人,社会的相互作用,ソシオグラム,ロビー,公的空間
T.はじめに
我が国の高齢化に伴う痴呆性老人の増大に伴い,痴呆性老人に関する研究は年々増加・多様化してきているものの,彼らの社会関係や相互作用に焦点をあてた研究は極僅かしか見当たらない。その多くは,痴呆性老人の言語表出や言語機能,コミュニケーション能力に関する研究,あるいは医師あるいはスタッフと痴呆性老人との相互作用に関する研究,あるいはコミュニケーションによるセラピー的効果とに関する研究といった研究領域に限定されているのが現状である【1】【2】【3】【4】【5】。本研究は,従来の痴呆性老人の言語表出や言語機能,コミュニケーション能力,プログラム開発を目的にした相互作用における効果といった諸研究とは異なり,相互作用のなかでも現実的に最も施設職員に問題化される可能性の高い成立・不成立の関係に焦点を置き,ロビーにおける痴呆性老人の相互作用をソシオグラムとして視覚的に提示可能とし,その構造の分析を行った。また,本研究結果は施設職員にとっても利用可能な研究であることを想定している。
一方で,本研究のような痴呆性老人間の相互作用研究は極めて乏しい研究状況下にある。室伏による研究で部分的に相互作用特性を提示してはいるものの,それ自体に焦点をおいたものではない【6】。また,阿保による研究は,コミュニケーションにおける各痴呆性老人の傾向性と手だてやコミュニケーションのパターンから,コミュニケーションの三つのレベルを指摘し,痴呆性老人のコミュニケーションとは「形式」の露呈であると結論づけているが,相互作用特性の分析を射程に入れたものではない【7】。したがって,本稿の目的は,特別養護老人ホームにおける痴呆性老人入所者のロビーにおける成立・不成立の相互作用をソシオグラムとしてまとめ,その相互作用特性を分析することである。
施設における痴呆性老人の相互作用は施設職員等においても明確に認識され難く,特に喧嘩や怒鳴りあいといった不成立の関係は痴呆性老人の問題行動として理解され,その原因はその痴呆性老人個人に帰すると考えられている。本研究は,そうした相互作用上の問題を痴呆性老人個人の原因に還元するだけではなく,関係性(相互作用)に着目した社会学的アプローチを採択している点でも重要な意義を持つと考える。
U.方法
1.調査方法
本調査は,U市の特別養護老人ホームにおける1994年度5月から8月までの4ヶ月の期間に及ぶフィールドワーク(合計観察時間122時間)を基本とした全調査の一部を構成するものであり,その観察結果から施設内において最も相互作用の頻度が高いのは“ロビー”と呼ばれる公的空間であったことから,本研究は観察場所をロビーに設定し,毎週1回,3週にわたって調査を行った。観察日にはレクリエーション等のプログラムが行われていない(昼食・散歩以外の時間の大半をロビーで生活している)日常的な日を選出した。1日7時間で3日間の計21時間を観察時間としたのは,観察では,調査日によってロビーにおける滞在時間に差は見られなかったが,平均的な滞在時間を測定するために妥当な観察時間と判断したためである。したがって,本調査は直接観察法を中心とした参与観察法を採用し,各週3日間の午後9時から午後4時までの7時間にわたり,施設1階の“ロビー”と呼ばれるパブリック・スペースにおいて社会的相互作用に関与したすべての入所者を対象に行った。結果として,調査時間帯にロビーで相互作用が観察されたのは1階入所者50名のうちの21名であった。
ロビーを調査場所に設定した理由としては,(1)先述したように,最も痴呆性老人間の相互作用が頻繁に見られたこと(全相互作用のうち81.3%はロビーで営まれていた),(2)食堂やデイルームのような閉じた空間とは異なり,ドアや壁がなく多様な老人の自由な移動が見られる開かれた空間であること,(3)習字会やゲーム,レクリエーション等のようにプログラムとして職員により設定された集まりではないこと,(4)ロビーは多くの移動可能な老人にとって一日の大半を過ごす日常的な場であること,が上記フィールドワークの調査結果から明らかになったことによる。
2.建物の構造とロビーの特徴
本研究対象のU市の特別養護老人ホームは鉄筋コンクリート地上二階建ての建物であり,定員80名,ショートステイ利用者が数名入所・滞在している。ロビーは,図1に示したように本館1階の入口近くに位置し,広さ30uの公的空間であり,逆“コ”の字の形をした施設の右翼廊下と食堂前の廊下の交差する地点に位置している。ロビーには壁に沿って椅子やベンチ(ソファ)が横一列に並び,その正面にテレビが置かれ,施設内で唯一「談話コーナー」として機能している空間といえる【8】。ロビーの直斜め右には寮母室があり,寮母室からはガラス越しに入所者の行動が観察可能となっている。また,本施設は入所者の居室を決定する際に痴呆の重症度が高い者を一階入所者として割り当てており,従って,本施設は痴呆性老人と一般老人との階分離型施設であるといえよう【9】。
----【以下、図の挿入】------------
※墨字版の論文では以下に施設1階部分の見取図を示しているが、以下では割愛。
(注) 本図は施設本館1階の見取図を示している。図に示したように,ロビーは逆“コ”の字の形をした施設の左翼廊下と右翼廊下の交差するところに位置している。中央の食堂は本館を出た中庭に建てられている。
図1.施設1階の見取図
----【以上まで図の表示】------------
3.分析方法
本稿では社会的相互作用を構成する最大単位を「集まり(gathering)」として設定し,観察を行った。集まりとは,「直接的に居合わせている二人以上の集合」と定義され【10】,一般には「複数の人間が同じ場所に居合わせて,相互作用をしている状況一般」を示すが,本研究ではあくまで観察可能な相互作用を行っているメンバーを集まりの成員としている。
分析の手続きは,第一に,調査時間帯にロビーで相互作用が観察された入所者21名の集まりを二者間関係(dyadic relationships)の形に操作化してデータとして扱った。二者間関係への操作化は痴呆性老人間の相互作用を簡潔に分析するためだけではなく,いかなる行為が相互作用の成立・不成立の関係に影響を及ぼすかといった理論的関心に依存するものである。
「二者間の集まり」の場合には,そのまま二者間関係としてソシオマトリックス上に集計可能であったが,「三者間以上の集まり」の場合は,(1)観察により明らかに第一者(A)が第二者(B)に相互作用を働きかけた場合〔第三者(C)はその場に居合わせているだけである〕と,(2)第一者(A)が同時に第二者(B)と第三者(C)に対して相互作用を働きかけた場合の2つの状況が想定された。そのため,前者の場合は,A⇔B(Cはデータとして扱わない)に操作化し,非対称のマトリックス上に集計し,後者の場合は,A⇔B,A⇔Cとして集計した。
第二に,その二者間関係の相互作用を以下4つのパターンのいずれかに分類した。相互作用パターンの分類基準は「相互作用の終了」の性質から判断した。そのため,例えば途中まで「成立の関係」であっても,終了の段階で「不成立の関係」であれば不成立の関係として扱った。「相互作用の終了」の性質を分類基準とした理由は,施設職員によって問題化されるのは相互作用の終了の場面であること,理論的には各当事者の相互作用行為の結果として生起する状況であること,そして他の相互作用研究にとっても研究上の戦略的基点となることによるものである。
各相互作用パターンは以下のように定義した。(a)双方が成立させた相互作用は「双方が関わりをお互いに開始・終了させた相互作用」と定義し,主として会話や手をつなぐことで始まり,お互いに好意を持って(少なくとも喧嘩することなく)会話や行為を終えることで相互作用そのものが終了する相互作用パターンである。次いで,(b)一方が成立させようとした相互作用は「一方が関わりを開始し成立させようとしたが,他方が関わりを成立しようとしなかった相互作用」と定義し,多くの場合,一方が話しかけたり行為をしかけるが,他方が気づかなかったり無反応のまま終了する相互作用である。(c)一方が不成立にさせた相互作用は「一方が関わりの途中で相手や関わりそのものに嫌悪的になり,中止した相互作用」と定義し,主として会話や行為の途中で,一方が他方に向かって嫌悪的な顔をしたり,怒る(怒鳴る)ことで終了する相互作用である。最後に,(d)双方が不成立にさせた相互作用とは「双方が関わりの途中で嫌悪的になり,関わりが中止となった相互作用」と定義し,多くの場合,会話や行為の途中で双方が嫌悪的になり,怒鳴りあって喧嘩することで終了する相互作用と位置づけた。
第三に,上記4つの相互作用パターンの前二者を「成立の関係」,後二者を「不成立の関係」の構成要素として設定し,21×21の非対称のソシオマトリックス上に集計し,最後にその結果をソシオグラムの形にまとめた。そのため,成立の関係・不成立の関係の2つのソシオマトリックスが完成し,ソシオグラムでは成立の関係を牽引(attraction)として,不成立の関係を反発(repulsion)として対応させた。
4.相互作用の分類基準の設定
実際の調査では,3日間の調査時間帯で観察されたすべての相互作用をフィールドノートに記述していき,そのデータを4つの相互作用パターンのいずれかに分類した。相互作用の終了と開始の分類基準としては一連の会話や行為の終了としており,終了後1分以上のものは同一の者との相互作用であっても別の相互作用として設定していたが,実際には最短でも数分以上の間隔があり,明確に区分可能であった。
また,4つの相互作用の分類は,観察データから筆者の判断で行っているが,分類基準となる行動が「嫌悪的な顔をする」や「怒る(怒鳴る)」といった明確に観察可能な行動であるため,分類上の大きなバイアスは回避できたと考える。ただし,一方が成立させようとした相互作用は“相互の交流の成立”といった厳密な意味での「成立の関係」ではなく,現実的に施設職員が痴呆性老人間の相互作用に介入しない(あるいはその必要がない)という意味での「成立の関係」である。そのため,一方が成立させようとした相互作用は,施設職員の介入が見られなかった相互作用であるが,一方が働きかけた相互作用自体が「未消化」の状態で終了しているという観点から一つのカテゴリーとして独立させて考察する必要があると判断した。また,一方が成立させようとした相互作用は「独り言」等とも区別が困難な場合があると予想されたが,実際には一方が明らかに他方に相互作用を働きかけている場合とそうでないような独り言等とは観察により区別することが可能であった。
5.本研究のソシオグラムの特徴
先述したように,ソシオグラムでは,「成立の関係」は牽引(attraction)に,「不成立の関係」は反発(repulsion)に対応しているため,前者を実線で,後者を破線で表した。矢印の方向は一方の当事者から他方への成立・不成立の相互作用の送り手・受け手の関係を示している。つまり,双方向の矢印の実線は「双方が成立させた相互作用」を,一方向の矢印の実線は「一方が成立させようとした相互作用」,一方向の矢印をもつ破線は「一方が不成立にさせた相互作用」を,双方向に矢印をもつ破線は「双方が不成立にさせた相互作用」をそれぞれ表している。また,線上の数字はその相互作用の頻度を表し,矢印が一方向を示す時には,数字はその矢印の近くに記し,双方向の矢印の場合にはほぼ中央に記している。本ソシオグラムの特徴は,二者間の相互作用の頻度(誰がどの程度),方向性(誰が誰に)を「成立−不成立」の関係に即して,視覚的に提供可能である点と,その二者間関係を個別に見るだけではなく対象者全体の位置づけで見ることを可能とする点である。
6.調査対象者の基本的属性と特徴
はじめに,対象者21名の性別割合・年齢・日常生活能力の割合・長谷川式簡易知的機能評価スケールを使った調査結果(以下,HDSと略す)を,1階入所者(50名)のそれと比較した場合の特徴を記す。対象者の性別割合は男性5名(23.8%),女性16名(76.2%)であった。対象者の年齢は73歳〜96歳までで構成され,平均年齢は82.9歳[SD=7.3]で,大半の老人が後期高齢者層(old-old)にあたる。これらの特徴は1階入所者の性別割合〔男性12名(24%)/女性38名(76%)〕・平均年齢82.5歳と比較してもほとんど差はない。
次に,いわゆる「日常生活能力」の割合を移動・排泄・食事の順に示す。移動は「自立15名」(71.4%)・「一部介助」2名(9.5%)・「車イス利用4名(19.4%)であり,排泄は「自立」7名(33.3%)・「一部介助」5名(23.8%)・「オムツ利用」9名(42.9%),食事は「自立」19名(90.5%)・「一部介助」2名(9.5%)・「全介助」0名であった。1階入所者50名と比較すると日常生活能力は高く,こうした差異は観察がロビーで行動可能の入所者を対象にしていることによると予想される。対象者の「HDS」の平均は5.9点(SD=8.5)であり,1階入所者50名の平均である6.1点と大きな差異は見られず,痴呆の程度は1階入所者を概ね代表しているといえる。また,対象者のうち5名は,ショートステイ利用者であったためデータの把握が困難であり,また寮母記録にも記載されていなかったことにより,年齢,HDS,身体症状等のデータは欠損として扱った。
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※墨字版の論文では各対象者の特徴を簡略に表記しているが、以下では割愛。
表1.各対象者の特徴
(注)表の各行に各対象者を,各列に年齢,移動,排泄.,食事,HDSの得点,身体症状・合併症,随伴精神症状の各結果を対応させて示した。性別は,男性をM,女性をFとして表示し,日常生活能力は,自立,一部介助,全介助(または車イス,オムツ)の三基準から説明した。
----【以上まで図の表示】------------
各対象者の特徴は表1に示すように,ほとんどの対象者は後期高齢者層にあたり,90歳代の対象者も3名と全体的に高齢であると言える。日常生活能力で特徴的なのは,移動では「一部介助」2名・「車イス利用」の人が4名,食事では「一部介助」2名・「全介助」0名であるのに対して,排泄は「一部介助」5名・「オムツ利用」9名と,移動・食事の「自立度」が排泄と比較して相対的に高いと言える。特筆すべき点として,移動が「車イス利用」である4名は“ロビー”に自ら移動してくるのではなく施設職員により誘導されて特定の場に置かれるために,他の対象者と比較してロビーへの出入が少なかった。
HとMのHDS得点は,それぞれ32.5点,20.5点であるため,得点から評価すれば「痴呆」ではないが,(1)彼らが痴呆性老人専門棟といえる一階入所者であること,(2)観察された全相互作用を除外することなくデータとして扱ったこと,(3)日常生活における相互作用を正確に反映したソシオグラムにすることに比重を置いたこと,等の理由から本研究対象者として扱うこととした。
身体症状・合併症,随伴精神症状は医師の診断書や寮母記録のデータを利用しており,その特徴としては,脳動脈硬化症5名,老人性痴呆が4名と多く,次いでアルツハイマー型老年痴呆3名,心筋梗塞,高血圧症となった。
V.結果
1.各相互作用パターンの特徴
3日間の観察から得られた全相互作用177件のデータの中で,(a)双方が成立させた相互作用は121件(68.4%),(b)一方が成立させようとした相互作用は36件(20.3%),(c)一方が不成立にさせた相互作用は11件(6.2%),(d)双方が不成立にさせた相互作用は 9件(5.1%)であった。双方が成立させた相互作用が7割弱を占めていることからも明らかなように,多くの相互作用は「成立の関係」であることが示された。観察日別の平均件数は,双方が成立させた相互作用の平均が40.3件(SD=5.5),一方が成立しようとした相互作用の平均12.0件(SD=4.4),一方が不成立にさせた相互作用の平均3.7件(SD=0.6),双方が不成立にさせた相互作用の平均3.0件(SD=1.0)であり,観察日別に大きな偏差はほとんど見られなかったことにより,本研究で扱うのは“日常的な”相互作用頻度であるといえる。
2.ソシオグラムの特徴
図2のソシオグラムから判断可能なように,成立の関係,不成立の関係はともにその頻度や関係している人数から考察してもAとCを中心とした相互作用が営まれている。また,21名の対象者の可能関係数840に対して,実際の関係数75は少なく,対象者全体の相互作用の密度は低い(75/840=0.089)。しかしながら,他集団の集まりにおける相互作用と比較していないために密度が低いから相互作用頻度が少ないと単純に結論を出すことはできない。
また,一方が成立させようとした相互作用が全体の2割もあり,その相互作用はB,H,Lといった特定の対象者が相互作用の一方の者を担っている場合が多い。このことは,B,H,Lが難聴,聴覚障害の状態にあることに起因するものと予想された。一方で,不成立の関係は,ソシオグラムからも分かるように,二者間でのみ行われる傾向にあり,データを操作化する以前の現実の場面においても「三者以上の集まり」による不成立の関係の相互作用は見られなかった。
----【以下、図の挿入】------------
※墨字版の論文では各対象者の特徴を簡略に表記しているが、以下では割愛。
(注) 実線は成立の相互作用を、点線は不成立の相互作用をそれぞれ示している。矢印の方向は一方の当事者から他者への成立・不成立の相互作用の送り手・受け手の関係を示している。線上の数字はその相互作用の頻度を表し、矢印が一方向を示す時には数字はその矢印の近くに記し、双方向の矢印の場合にはほぼ中央に記している。
図2.痴呆性老人間の成立・不成立によるソシオグラム
----【以上まで図の表示】------------
3.ソシオグラムの結果
ソシオグラムから以下の結果が得られた。(1)実際の関係数は可能関係数より少なく,その密度は低い,(2)対象者の相互作用の中心性はAとCに位置しており,両者間の頻度も高い,(3)一方が成立させようとした相互作用の割合が2割以上もあり,コミュニケーション能力の低下等によって双方による相互作用が困難であることも多い,(4)成立の関係は三者間関係以上のネットワーク図式となっているのに対して,不成立の関係は二者間でのみ形成されており,不成立の関係では“グループ化機能”が働かない,(5)多くの関係数を有する痴呆性老人ほど相互作用の頻度も高い,といった結果が得られた。
W.考察
本研究の結果から,喧嘩や怒鳴り合いといった問題的に捉えられてきた痴呆性老人間の相互作用は,本研究では多くの場合当てはまらず,安定的相互作用が中心であることが明らかになった。
ソシオグラムでAとCが中心であるのは,AとCが1階入所者の中で最も移動量と移動範囲が大きいことによると予想される。痴呆性老人の移動特性と相互作用の頻度・空間に関する研究から,AとCの相互作用ポイントが施設内(1階)全体に及んでおり,ポイント数(頻度)が対象者の中で最も多かったことが示しているように,移動量によって相互作用の頻度が,移動範囲によって相互作用の空間における使い分けが規定されることによるものと判断された。
また,AとCが不成立の関係の中心であるということは,単に両者の相互作用の頻度が高く,関係数も多いため,それに準じて不成立の頻度も高くなるという理由からだけではなく,相互作用の文脈性に依存すると思われ,実際には,各対象者のコミュニケーション行動の違いから,不快感や嫌悪感が起こり,不成立の関係になるといったコミュニケーション行動特性によって規定されると予想される。
以下では,全研究プログラムの結果も考慮しながら,あくまで本研究対象者に限定して,理論的関心も射程に入れた全体的考察を行ないたい。
第一に,痴呆性老人の相互作用は決して無秩序なものではなく,多くの場合安定したものであり,あるいは不成立の関係の相互作用の結果からも分かるように,施設職員に問題化される相互作用は,多くの場合特定の相手との間でのみで行われている。また,その構造は数人を“核”として形成されており,彼らを中心にして相互作用が営為されていた。
第二に,特別養護老人ホームの入所痴呆性老人の公的空間(ロビー)での相互作用は,多くの場合で安定した相互作用であったが,公的空間として設計・建築された空間すべてにおいて相互作用が多く見られるのではなく,施設における相互作用の多くはロビーで行われており,同じ公的空間である食堂やデイルームなどではあまり相互作用は見られなかった。つまり,公的空間として設計されたロビーゆえに公的な相互作用が営まれているのでなく,その空間を構成する入所者の人数や職員の対応等により実質的な公的空間となると予想される。
第三に,同じ公的空間である食堂やデイルームなどは「食事」「レクリエーション」といった目標設定された公的空間であるがゆえに,痴呆性老人はそのことにある程度集中し,痴呆性老人間の相互作用の頻度は低下すると予想される。あるいは,食堂やデイルームでは施設職員との相互作用頻度は増加するため,痴呆性老人間の自由な相互作用が妨げられているといった一因も考えられる。
第四に,ロビーは,他の公的空間とは異なり痴呆性老人の自由な移動が見られる空間である。そのため,頻繁にロビー内外の移動が見られ,その移動から相互作用が誘発される場合が多く見られた。実際に,相互作用が開始される直前の一方の相互作用参与者の行動(先行行動)の85%以上はロビーを中心にした移動行動であった。
したがって,(1)公的空間はでき得る限り自由な移動が見られる開かれた空間であること,(2)職員は特定の痴呆性老人の組合せを避け,安定した環境を提供すること,(3)目標設定されていない(プログラム化されていない)公的空間を施設内に分散させた設計にすること,等が今後の施設設計・運営の可能性として考察され得る。
本稿の最後に,本研究の限界点と今後の課題について整理したい。本研究は相互作用の終了の性質により相互作用パターンの分類を行ったが,今後は相互作用の開始から終了までの相互作用過程を分析する必要があろう。あるいは,各相互作用参与者のどのようなコミュニケーション行動により二者間の相互作用そのものが影響されているのかを考察していくことが今後の課題といえる。
謝辞
本調査は,「施設入所痴呆性老人の相互作用研究」の研究成果の一部を構成するものであり,(1)施設入所痴呆性老人の移動特性と相互作用の頻度・空間に関する研究,(2)施設入所痴呆性老人の公的空間における相互作用特性に関する研究,(3)痴呆性老人の相互作用特性とコミュニケーション行動に関する研究,の第二部として成立している。終始一貫してご指導していただきました立教大学社会学部の木下康仁先生に深甚なる謝意を表します。
文献
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【10】Goffman E:Behavior in Public Places;Notes on the Social Organization of Gatherings, The Free Press of Glencoe,New York (1963),丸木恵祐・本名信行訳『集まりの構造』,誠信書房,(1980).
英文抄録
The purpose of this paper is to analyze social interactions of the aged with senile dementia in the public place of a nursing home by the“Agreement-disruption”sociogram.
As the method of this study, I focused on 21 the demented elderly in public space called“lobby”, and adopted the direct observation centering around the participant observation method.
The results of this analysis of the sociogram were as fellow:
(1)Most of demented elderly persons have the stable interaction.
(2)The interactions between the demented elderly have the structure which is centered upon several.
From these results, it was obvious that social interactions of the aged with dementia in the public space were by no means disruptive, or rather most of those were stable.
Key Word:the aged with dementia,social interaction,sociogram,lobby,public space,
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