天田城介(josukeamada.com)著書・論文など
■002■
「居住形態における米国老人の役割変化に関する比較文化的考察」.
立教大学大学院社会学研究科発行.『社会学研究科論集』第3号.P51〜P64.1996年3月.

天田城介(AMADA Josuke)
脱稿:1996.01 最終更新日:2004.04


【全文】(以下、草稿です)

居住形態における米国老人の役割変化に関する比較文化的考察
Cross-cultural Analysis of Role Changes of the Elderly in Various Types of Housing

●天田 城介
 AMADA Josuke

 The purpose of this paper is to clarify role changes of the elderly in various types of housing in American society, and to analyze role changes of the elderly from the viewpoint of Cross-cultural Studies of Aging and the Aged.
 First, I classified the studies into four types of housing on the basis of my set framework, pointed out theoretical trends occuring in each. Next, I clarified the role change pattern of the eldely in each types and analyzed these patterns from the viewpoint of Rites of Passage and Reciprocity. As a result, it was obvious that the American culture characteristic towards aging had been separated between independent and dependent.

1.はじめに
 本稿の目的は、アメリカ社会老年学の領域における老人の役割変化に関する諸研究を批判的に概観することによって、居住形態別にみた老人の役割変化パターンを明らかにし、それらの役割変化パターンがアメリカ社会の文化的背景に基づくことを考察することである。本稿の特徴は、「通過儀礼(rites of passage)」と「互酬性(reciprocity)」を分析軸として各居住形態の役割変化パターンを検討し、それらの文化的背景であるアメリカ文化を「老化・老人の比較文化研究(Cross-cultural Studies of Aging and the Aged)」や老年人類学(Anthropology of Aging)の領域の主要研究から考察していることである。結果として、老いに対するアメリカの文化的特徴は自立/依存という老いの持つ両義性が分断された状態にあることを示している。
 本稿では、第一に、居住形態に基づいて整理・分類化作業することを通して、それぞれの居住形態群による社会的役割研究の研究動向を明らかにしている(第二章)。第二に、上記の研究動向を分析することにより、各居住形態における高齢者の役割変化パターンを通過儀礼と互酬性の観点から分析している(第三章)。最後に、まとめとして、アメリカ社会の文化的背景あるいは老人とコミュニティの関係を考察している。

2.居住分類における諸研究の理論動向
 本章では、老人の居住形態をサポートの強弱の連続体上で考察することの有効性を指摘したストライブらの居住分類の連続体を基に居住形態群を4つに分けて、それぞれの居住形態に住む老人の役割変化を扱った研究を概観し、その研究動向をまとめたい。
 ストライブらは、自宅で自立して生活を営む状態からナーシングホームでケアを受ける依存した状態までの連続体上に様々な老人の住宅を配置して考えることが有効であるとし、「サポート弱:家,マンション」,「サポート中:モービルホーム・パーク,引退者用ビレッジ,引退者用アパート,引退者用ホテル,共有住宅」,「サポート強:ライフケア施設,ナーシングホーム」の3つを分類している(Streib, et al 1984)。各居住形態によってサポートの度合いも異なるという見解は概ね妥当なものと思われるが、近年の「脱施設化」による在宅介護の状況あるいは在宅サービスの普及を考慮するのであれば、「家,マンション」に居住しながら、サポートをかなりの程度受けているという状態も範疇に含めなければならない。そのため、「サポート強:家,マンション」のカテゴリーをの居住形態の連続体の中に含めることとする。以下、「サポート弱:家,マンション」を第一群,「サポート強:家,マンション」を第二群,「サポート中:モービルホーム・パーク,引退者用ビレッジ,引退者用アパート,引退者用ホテル,共有住宅」を第三群,「サポート強:ライフ・ケア施設,ナーシングホーム」を第四群としてカテゴライズして作業を進めることにする。しかし、このようにカテゴライズした結果、第二群がサポート強の状態にも関わらず、家・マンションにいるということで、各居住形態をサポートの度合いの連続体上に捉えるというストライブらの分類は意味を成さなくなってしまう。本稿の試みは、ストライブらの居住分類の機能的連続体という図式には含むことのできないカテゴリーを考慮することで、そうしたカテゴリーを含むことが可能な図式を再構築することである。

(1)各居住形態における老人の役割の特徴 
 本章では、各居住形態群の老人の社会的役割の主要な文献を概観することで研究動向を明らかにしていきたい。以下では、役割変化を(1)役割喪失,(2)役割獲得,(3)継続的役割における役割変化,のいずれの三点から概観したい。前二者は加齢に伴う様々なライフイベントによる新たな役割喪失や役割獲得を設定しているのに対して、後者は様々なライフイベントを経ながらも継続的に維持されている質的な役割変化を設定している。通常ライフイベントとしては、配偶者などの死亡,退職,移転,健康状態の悪化などが考えられている。以上を踏まえ、上記の三点から各居住形態群の役割変化を順を追って説明していく。

1)第一群
 アメリカの老人の80%〜90%は本居住形態群に属する(Streib,et al 1984)。そのため、ここで問われているのは老人全般にわたる役割変化の問題である。あるいは、他の居住形態群であってもこの居住形態群の役割変化を経ていたり、含んでいることが多いと予想されることからも、多少紙面を割いて説明していきたい。
(1)役割喪失  配偶者の死はアメリカの老人にとって最も苦痛を伴うライフイベントであると考えられていてため、数多くの研究が成されてきている。これらの研究では、配偶者を喪失した者の喪失後の死亡率や再婚率や健康状態などから喪失後の適応あるいは適応を可能にしている要因,あるいは性差による適応の差異の分析が中心的理論動向となっている。しかしながら、配偶者の喪失に対して適応しているか否かについても、適応を可能にしている要因についても、性差についての適応の差異や,喪失後の社会的接触の減少についても一致した見解は見られず、結論に至ってはいない。
(2)役割獲得  老人の役割獲得として、祖父母や余暇活動者としての役割が挙げられる。ロバートソンは老人の四割近くが親役割よりも祖父母役割の方を好むと指摘している(Robertson 1977)。また、退職後の家庭内での役割変化による葛藤は時間の経過によって緩和されていき、祖父母としての役割が満足感の源泉になるという指摘もある(Hagestad 1988)。ベングトソンの研究(Bengtson 1985)によると、メキシコ系アメリカ人の祖父母は、アフリカ系やイギリス系アメリカ人に比べて孫との接触頻度が多く、孫との接触から高い満足感を感じており、世代間援助にについても多大な期待を持っている。一方で、アフリカ系アメリカ人の民族的特徴として“擬制的親族”が挙げられる。彼らの47%は、自分自身の子以外の子どもを育てたことがあり、同数の者が“擬制的孫”がいると答えている。
 一方、退職後の余暇活動者としての役割についてもいくつか研究が行われている。ケリーらの研究(Kelly, et al 1986)で明らかになったように、老人の活動は全体的な活動レベルと比較して、家庭内や社会を基盤にした活動は相対的に変化が少ない。このことは、旅行やスポーツなどの活動は減少しても、家庭が基盤の活動や社会的活動・地域活動などはほぼ維持されていることを表している。
(3)継続的役割における役割変化 継続的役割には、性役割・配偶者役割・親役割・兄弟姉妹役割・友人役割が挙げられる。これらは、加齢に伴う様々なライフイベントによって影響を受けながら変化していく。例えば、退職によって職業者と押しての役割を喪失することによって、性役割や配偶者役割は大きく変化していく。このように継続的に役割を担う過程で、質的には役割は大きく変化しているのである。
 夫婦間の関係の質に影響を及ぼすものとして、退職,どちらか一方の配偶者の健康状態の悪化,転居が考えられる(Atchley & Miller 1983)。通常、退職は夫婦間の相互依存は強まる一方で、同時にストレスを強めているといわれている(Kelly 1981)ように、複雑でアンビバレントな関係になるといえよう。性役割変化については、性役割逆転理論と両性性理論に二分されており、結論に至っていないのが現状である(下仲ら 1989)。
 老人と成人した子どもの親子が相互に援助しあうというのは、アメリカ社会の規範であり、ほとんどの親子の場合生涯を通じて存続する愛情に基づいた関係であるといわれている(Cicirelli 1983)。また、シシレリーは兄弟姉妹関係にも触れ、それは家族関係の中でも最も長く続くものであり、思い出の共有などから関係としても親密であることを指摘している。また、従来の研究からも、兄弟姉妹間ではかなり高頻度に連絡を取り合っていることが報告されている(Shanas 1973)。ヘス(Hess 1972)は、老人は若者よりも役割が限定されているため他の世代と友人関係をつくっていく基盤が狭いので、他の年齢層が入り交じった環境よりは、同世代の集まった環境における方が友人をつくりやすいと述べている。

2)第二群
 本居住形態群の老人の多くは、家族によって介護されている老人である。このことは、長期介護を必要とする老人の20%がナーシングホームに入っているに過ぎず、また、施設ケアを利用していない要介護老人のうちの25%が部分的に公的介護を利用しているにとどまり、残りの75%は非公的介護者(大半は家族介護者)によるケアであることが報告されていることからも明らかである(Stone 1987)。これはアメリカの在宅ケアに対する公的支援システムが“ノン・システム”と批判されているように、アメリカ社会の在宅ケアの基盤が非常に未整備であることに関係しているといえる。
(1)役割喪失  本居住形態群の老人は、疾病や慢性疾患による障害のために多く役割を喪失する。具体的には、障害のために活動が制限されるため余暇活動者役割などを喪失する。また、友人役割などのかなり限定されたものになるといえる。逆に、家族介護者との関係は非常に強まり、その依存の度合いも大きくなる。
(2)役割獲得  社会組織に対しては障害老人、あるいは要介護老人としての役割を担うことになるが、家族に対しては継続的な役割が変化しつつ維持される。そのため、新たな役割獲得というのは見られない。
(3)継続的役割における役割変化  障害によって活動が制限されることで逆に、老人と家族介護者との関係における依存は強化され、そのことによるストレスも増大する。ジョンソンとカタラノの研究によって、病院から退院した老人の多くは主として1人の家族介護者によって介護されていることが明らかになった(Johnson & Catalano 1983)。こうした家族介護によって老人の多くは地域にとどまることができたが、介護者であることの多い年老いた配偶者の11%が健康に問題をきたしており、これに対処するために彼らの子どもたちは、しばしば家族ネットワークの責任を拡大することによって介護に他の人を巻き込むことや家事援助者のような外部援助を見つけるという“敬遠法(distancing technique)”をとっていた。また、ギブソン(Gibson 1986)が、白人は中年期に援助を配偶者にのみ求める傾向が強く、老年期に入って何らかの理由で配偶者の援助が受けられなくなると家族メンバーのうちの誰か1人をその役割にあてることによって代替しようとするのに対して、アフリカ系アメリカ人はインフォーマルなサポート・ネットワークによって対処している、と指摘しているように民族的な文化的背景によって援助形態も大きく異なる。

3)第三群
 本居住形態群は、通常「退職者(老人)コミュニティ」と呼ばれ、コミュニティ規模が小さく、比較的に閉鎖的同質的な社会であるため、老化・老人の比較文化研究の調査方法に非常に適し、そのためこの領域を中心として研究が行われてきている。そのため、こうした「退職者コミュニティ」を成立させたアメリカ社会の文化的背景を分析する先行研究は豊富に存在するが、当然ながら、他の居住形態群と比較しても分かるように、多様な形態を含んでいるために一律に判断することはできない。本稿では種々の居住形態の文化的背景における相違点ではなく、全体的な「退職者コミュニティ」を成立させている文化的背景を扱うことにのみ限定している。
(1)役割喪失  本類型の居住形態群が、「退職者コミュニティ」と呼ばれていることからも分かるように、これらは退職後移り住む場所であるため、退職と移転のライフイベントが最大の問題となる。ほとんどの場合、夫婦あるいは1人で移り住むために、それまでの友人役割・隣人役割・地域活動者役割を喪失することになる。しかし、親族の関係は比較的保たれているといわれている。この居住形態における役割喪失に対する適応あるいは不適応に関する研究は行われていないが、いくつかの研究の指摘から判断するなら、多くの老人は役割喪失に対して適応しているといえそうである。
(2)役割獲得  本居住形態群の老人の最も特徴的なのが、彼らの役割獲得の側面である。彼らは、退職や移転によって役割を喪失しているにも関わらず、この居住形態に移り住んだ後、新たに友人や近隣者との親密な関係を獲得している。このことを最もよく表しているのが、ホックスチャイルドによる研究であろう。彼女は、メリル・コートという北カリフォルニアの小規模老人アパートの調査から、そこの老人達がお互いにサポート・ネットワークを形成していることを明らかにした(Hochschild 1974)。彼らは、相互に健康状態のチェック,買い物や炊事洗濯を虚弱老人のために行うといった行動をとっていた。
 また、南カリフォルニアのユダヤ人地域を調査したミアホフは(Myerhoff 1978)、センター・コミュニティにいる老人の多くが、男女を問わず、何らかの経歴や活動・目的を持って生きていて、彼らは失われた可能性を代替する新たな可能性を自ら準備し、成長と達成によって常に自らに対して新たな基準を設け、短期的・長期的に人生の意味を求め、見出していることを報告している。他の諸研究でも上記の二例の研究と同様に、これらの居住形態群は社会的統合性が高く、生活満足度も高いというのがほぼ一致した結論である。
(3)継続的役割における役割変化  先述したように、本居住形態群の老人と親族との関係は比較的保たれているが、継続的に維持されている役割としては親族に対するものがほとんどのようである。兄弟姉妹関係については明らかにされていない。

4)第四群
 老人の25%はナーシングホームにはいる可能性があるがそれは主にショートステイなどの利用としてであり、長期入所する老人は5%である(McConnel 1984)。ここで、ナーシングホームの入居老人の特徴を挙げておく。ナーシングホームの入居老人の年齢の中央値は81歳であり、65歳以上の全人口の中央値の72歳に比べてかなり高齢であり、また入居老人の92%は白人であり、全人口の11.7%を占める黒人は6%,6.5%を占めるヒスパニックは1%である。配偶者を失ったものや未婚者の割合は、地域に住む老人(第一群)で42%であるのに対し、入居老人は83%である。あるいは入居老人の25%はすべての日常生活動作で援助を受けなければならない状態にあり、極めて高いレベルの介護を必要としている状態である、と報告されている(Brody, et al 1974)。入所者の特徴としては、白人,女性,高学歴,高収入,一人暮らし,別居あるいは未婚,子どもがいないことが挙げられ(Palmore 1976)、また、経済力,健康,ソーシャル・サポート,状況への対処能力などが欠如している老人は施設入所の可能性が高いといわれている(Smallegan 1985)。
(1)役割喪失  ここでの問題は、健康状態の悪化とナーシングホームなどの施設への移転という二重のライフイベントによって老人の役割は喪失、ないしはかなり制限されるということである。ゴードン(Gordon 1985)によれば、老人にとってナーシングホームへ移転することは離婚や子どもの死よりは幾分ストレスは軽いものの、非常にストレスフルなライフイベントとして位置づけられるとしている。移転後すぐには心理的不適応状態として抑鬱や怒り・攻撃などが顕著に見られるが、移転の二週間後には元の状態に回復したという報告(Brody, et al 1974)や移転後には対人的活動の減少や居室での閉じこもり、スタッフへの依存度が強まる傾向が見られる(Patnaik, et al 1974)ということが指摘されているが、その適応を決定する要因としては、移転が予測可能であったか否か,移転に関わる意志決定過程やその他の事柄に老人自身がいかにコントロールできたか,などが考えられる。
(2)役割獲得  上記の入居老人や障害老人としての役割として期待されることに対して適応し役割を獲得していくのも、重要な役割獲得の一つであるが、もう一方で、施設内での友人役割や隣人(同室者)役割、スタッフとの関係から生じる入居老人役割あるいは友人役割などの獲得も非常に重要である。
 ミラーとビールが入所老人間の関係を調べたところ、老人の76%は友好的な関係を維持してきた特定の他の入所老人を挙げ、また、8%の人はすべての入所老人を好ましい人だと答えたが、11%の人は全く親密な関係を持たず、5%の人は自分たちの友人は既に死んでしまったと答えた。ここで親密な関係がないと答えた入所老人の多くが長期入院者であった(Miller & Beer 1977)。一方で、入所者の35%は孤立していて、ホーム内に友人は全く見られなく、入所者の友人の中央値は1人であり、最大値でさえ6人である。また、長期入所者,障害を有する者ほど友人は少なかったという報告も見られる(Retsinas & Garrity 1985)。ウェルズとマクドナルドの研究では、入居老人間の関係は施設戸外の家族や友人との関係に比べると極めて悪く、42%の老人は親密な関係である同じ入居者仲間を1人も持っておらず、また、こうした入居老人間の親密な関係の減少は転居後に起こっていることが多かった。このことは、親密な関係が転居によって以前のホームにおける親密な関係を分裂させられたことを表しているし、こうした関係が転居後に代替されていなかったともいえる。ルームメイトとの関係の研究では、いずれも心理的にもかなりストレスになっているといった否定的な見解が多い(Miller & Beer,1977 ; Kahana, et al 1985)。
 また、入所老人とスタッフとの関係は特に重要な関係であるにも関わらず、ほとんど実証的な研究は行われていない。ノエルカーとポールショック(Noelker & Poulshock 1984)は、入所者とスタッフの間に親密性がないのは、すべてに人に平等なケアをしなくてはならないというサービス上の規範に対してスタッフが固執することなどによるものであると述べている。一方で、ミラーとビール(Miller & Beer 1977)の報告では、入所者の76%が自分たちが親密だと感じる特定のスタッフを挙げている。
(3)継続的役割における役割変化  入所老人と家族との関係でいえば、入所前に保っていた家族メンバーとの関わりのパターンは維持される傾向がある。ヨークとカルシンは、三つのナーシングホームにおける家族の訪問状況を調べたところ、平均して月に12回の訪問が見られ、76家族のうち2家族だけが月に2回以下であった。また、家族のインタビューから、家族で訪問しているのは入所者の子どもであることが殆どであったことを報告している(York & Calsyn 1977)。また、カハナらも、入所者の64%は一週間のうちにナーシングホームの外部の者の訪問を受けており、その訪問の大部分は家族であり中でも最も多い(40%)のが子どもであった(Kahana, et al 1985)ことを明らかにしている。家族の関係と転居後の適応については、ウェルズとマクドナルド(Wells & Macdonald 1981)が以下のように指摘している。彼らの調査した入居老人の82%が少なくとも家族の1人ないしは友人の1人と接触していて、これらの人々との接触は他の施設の転居後でさえ保たれていた。このように家族や友人との親密な関係が頻繁であり安定していることによって、転居後の入居老人の施設満足度や心理的機能の低下などの望ましくない影響を最小限にすることができることが示された。

(2)各居住形態群における老人の役割変化パターン
 本節では前節で述べてきた各居住形態群別の老人の役割変化のパターンを他の居住形態群と比較検討し、その「代替の原則(principle of substitution)」を明らかにしたい。代替の原則はシャナス(Shanas 1979)によって提示された概念であり、老人の社会的喪失に対して家族・親族の成員によって替わりが提供されたり、補われたりする機能を指している。本稿では、この代替の原理を家族・親族間関係に限定せずに、あらゆる関係の概念として拡張して用いたい。更に、その特徴を「通過儀礼」と「互酬性」の観点から分析することで、老いに対するアメリカ文化の特徴の検討へと進めていきたい。

1)各居住形態群別の老人の役割変化パターン
 第一群の老人は、職業者役割あるいは配偶者役割を喪失するが余暇活動者役割を獲得している場合が多い。また、退職後には夫婦間の依存度が増大し、ストレスが強まるといえる。その代替として兄弟姉妹や友人との関係が機能するが、サポート源にはならない場合が多い。ただし、アフリカ系アメリカ人などの民族集団などでは職業者役割の喪失は非常に曖昧であり、配偶者喪失に対しては擬制的親族やインフォーマル・グループが代替機能の役割を果たしている。第二群の老人は、配偶者がサポートを提供するのが困難になると、他者からのサポートを巻き込んだり、家族以外の公的機関からの協力を得ることで、トライアドを形成し解決法を探っている。第三群の老人は、転居によって友人・隣人・地域活動者役割を喪失するが、その代替として新たに役割を構築・獲得し、同輩者集団の強い紐帯から高いモラールを得ていた。第四群の老人は、一定の家族関係は保たれているようであるが、友人・隣人・余暇活動者役割を喪失し再獲得しているか否かは議論の分かれるところである。ただし、全体的理論動向からいえば、社会的喪失の代替の機能はあまり働いていないと予想される。

2)通過儀礼・互酬性を分析概念とした先行研究

 以下では、以上のような各居住形態群の老人の役割変化の特徴を通過儀礼・互酬性から分析したい。はじめに、通過儀礼と互酬性あるいはどちらかから米国老人を分析している研究で特筆すべきものを二例挙げておきたい。
 シールド(Shield 1990)は米国南東部のユダヤ人コミュニティのナーシングホームの入所者を通過儀礼と互酬性から分析し、ナーシングホームの入所を成人から死への移行の境界状態として位置づけている。しかし、ナーシングホームの入所者は境界の段階にあるものの、V.ターナー(Turner 1969)のいうコムニタスが示されている訳ではない。また、ナーシングホームにおける通過儀礼に他の通過儀礼における境界的な状態のように依存と分離を見ることはできるが、他の通過儀礼とは異なり依存は教示を伴っている訳ではない。つまり、成人から死への移行の境界状態であるナーシングホームの入所には儀礼が伴わないために、この移行を経ている者は孤独の状態であり、助けを得ることができないのである。
 また、ナーシングホームにおける互酬性をシールドは以下のように分析している。基本的には、ギブ・アンド・テイクが循環的に行われ、相互に恵みをもたらすのために、人間は結びつくことができる。この互酬性が不均衡となった時には関係は崩壊する。ナーシングホームでは、ケアに対して直接お金が払われることがないなどの例が示すように「互酬性の圧迫」されているために不均衡な互酬性となり、コミュニティが形成されにくい。
 一方で、ジョンソン(Johnson 1987)はソーシャル・サポートの供給と関連した二者間の次元を明確化するために、老年期の主たる二者関係(dyadic relationships)を互酬性から分析している。彼の分析の特徴は、老人のサポート源としての単位として機能してはいない家族あるいはインフォーマル・ネットワークを分析するのではなく、あくまで二者関係に焦点を置くことで、その関係で期待されている規範,互酬性,自律性・依存などの分析を行っているところである。また、サーリンズ(Sahlins 1965)が分類した三つの互酬性のタイプから二者関係が一方的な提供者/受給者となっている家族内の不均衡な互酬性を考察し、二者関係の一方が過度の負担や葛藤もなく相互作用を続けることができるには、ある均衡を保つメカニズムが必要であることを示している。結果として、依存者とケア(サポート)の主な担い手である配偶者の関係や家族との関係は、アメリカ文化の価値志向である自律性とは相矛盾する依存者への義務的な紐帯によって結びついているために、アンビバレントの傾向が見られるとしている。
 ここで、筆者が以上の分析概念をいかに扱っているかを整理しておきたい。シールド示した成人期から死への移行の境界状態(境界性)はナーシングホームの入所者だけではなく、老人一般に拡張した概念として用いることとし、一方で、互酬性はジョンソンの分析のように二者間に焦点をしぼって扱い、それを二者関係の役割変化という範囲まで意味を広げて考察したい。また、特に均衡を保つメカニズム(以下、均衡メカニズムとする)から文化的価値の問題について考察していきたい。

3)各居住形態群の老人の役割変化パターンの通過儀礼・互酬性からの分析
 「老い」は成人から死へと向かう移行の境界の状態であるにも関わらず、儀礼が存在しないために、境界性に本質的に備わるだけが強調され、その移行は終わりなきものである(Shield 1990)。ロソーは老年期への移行の特徴として、通過儀礼の欠如・社会的喪失・役割の不連続性の三つを挙げている(Rosow 1974)。更にロソーは、役割の不連続性が起こる理由を、役割喪失などの社会的喪失に対する用意もなく、また新しい規範・責任・権利といったものを代替するようなものがないからだとしている。紙面の制約上詳細に述べることはできないが、穢れを浄めるためには呪術的・儀礼的行為を必要とする(Douglas 1966)。そのため、通過儀礼の欠如によって老人の穢れは浄化されず、また新しい地位や役割も用意されることもなく、一緒に儀礼を受けた者の間に親密な感情を形成することも、コミュニティの連帯感を促進することもない。そのため、コミュニティの人々はこうした穢れを避けるため境界状態にある老人を隔離するか、あるいは子どもと同等視することによって死の脅威をいたわりの親しみに大きく変化させてしまう(Shield 1990)。特に、依存度の増大は死の近接性を表象するためにこうした境界性はナーシングホームなどで見られやすい。
 一方で、「老い」は生理的機能の低下や病気や慢性疾患による依存度の増大をもたらし、二者間の関係は不均衡な互酬性となりやすい。これに対し、ジョンソン(Johnson 1987)は均衡メカニズムとして、@人間には依存する権利があるという認識があること,A介護者の地位の向上,B介護者への社会的期待が明確であること,C交渉や取引の資産を持つこと,D介護者が二者間の緊張を減少させるような他者を含んだサポート・ネットワークのを拡大化を図ること,E介護者が依存者に心理的距離を置くこと,の6点を上げている。今まで見たきたように、米国では自律性と家族内の介護への規範の矛盾から前三者はほとんど見られないといってよいであろう。つまり、通過儀礼の欠如によって老人の役割の不連続性が起こることによって、その介護者の役割や社会的期待さえ不明確になっているのである。Cのメカニズムは、比較文化研究が明らかにしてきたように、未開社会や発展途上型社会では主に家族・親族内で働いているのに対し、米国では公的サポートの代価としている場合が多いようである。米国では配偶者による介護が中心であり、これは交換の原理というよりもむしろ愛情に基づくものである。DEのメカニズムは、第二群の老人の家族で見られた敬遠法ように、現在の米国でよく見られることとして理解できよう。
 ここで、各居住形態群の老人の役割変化を通過儀礼と互酬性から考察してみよう。通過儀礼でも互酬性でも決定的に問題になるのは依存の状態である。第一群の老人の特徴は、藤田(藤田 1986)が彼らを work と middle class という二つのシンボルで表し、その二つのシンボルは自立性・主体性・勤労精神・ボランティア精神といったアメリカ文化の中心的価値を反映していると指摘しているように、アメリカ文化の中心的価値を志向し、精力的に活動し、余暇活動者役割や友人役割を維持している。ただし、アフリカ系アメリカ人などの民族集団ではアメリカ文化の中心的価値を志向する訳ではなく、擬制的親族やインフォーマル・ネットワークの中に生まれたときから組み込まれているので、その中での相互依存関係は老後まで続き、老後の社会的喪失に伴う代替機能として働く。こうしたサブカルチャーによってコミュニティは形成されており、老人は一定の役割を与えられている。第二群の老人の特徴として、極めて強い配偶者への依存度が挙げられる。自立を志向する米国においては、老人は自らの依存性を否定するか、依存することに対して自らを責めるかのどちらかという望ましくない状況に陥っている(Clark 1969)。ただし、唯一比較的依存が許されるのが配偶者との関係においてであり、これは特に男性に見られる。ただし、配偶者を喪失した場合は、非常に不適応の状況が予想され、急激のモラールの低下が見られるであろう。第三群の老人は、年齢同質的なコミュニティに自発的に集住することによってサブカルチャーを形成し、統合的なコミュニティの老人に比べてモラールが高い。ここでは、アメリカ文化の中心的価値志向である自立は明確なものではなく、依存的状態であっても互酬性の原理に基づく同輩集団による相互サポートによって解決されている。第四群の老人の特徴は、第三群と同様に比較的年齢同質的な集団であるが、構造的条件などによって「互酬性の圧迫」が行われているためにサポートが不均衡な互酬性となりやすい。そのため、横のサポート・ネットワークが発展することはなく、コミュニティとして形成されない。

3.老人とコミュニティ
 本章では、各居住形態群の老人の役割変化パターンを形成しているアメリカ社会の文化的価値の問題と老人とコミュニティの問題について簡単に述べたい。
 各居住形態群の老人の役割変化パターンを通過儀礼と互酬性から分析した結果、図2のように各居住形態の特徴を表すことができる。X軸はその集団成員の統合性/同質性を、Y軸はコミュニティの文化あるいはサブカルチャー(下位文化)の価値の中心性/境界性の関係を示している。筆者の図式は、ストライブらがサポートの程度の連続体上で居住形態を分類した一次元の図式に対し、サポートの程度から見た分類軸の矛盾を解決し、その文化的価値を考慮に入れた二次元図式である。集団成員の相違でいえば、第一群と第二群は各年齢層によって構成された統合的な集団であるのに対し、第三群・第四群は年齢同質的な集団である。しかしながら、第一群・第二群は地域コミュニティとしてよりもむしろアメリカ社会全体としてのコミュニティとしてまとまっているのに対して、第三群は集住形態の人々のコミュニティという小規模なコミュニティとして形成されている。第四群は小規模なコミュニティとしてのまとまりがなく、集団感情が見られないといえる。従って、第四群はむしろ第一群・第二群同様にアメリカ社会全体としてのコミュニティに呑み込まれている状態にある。

----【以下、図の挿入】------------
※論文では以下に図を挿入していますが、以下では列記するにとどめる。

      中心性
   第三群    第一群
同質性    +     統合性
   第四群    第二群
      周縁性

図2.各居住形態群の特徴
----【以上まで図の表示】------------

 一方、コミュニティの文化あるいはサブカルチャーの価値の中心性/周縁性は、それぞれのコミュニティの中で居住形態別の老人が文化的価値においていかに位置づけることができるかという問題である。上述したように「老い」は成人から死への移行の境界の状態であり、通過儀礼の欠如によって老人の穢れは浄化されないまま生き続けることで過渡期の境界状態を避けようとするのである。第二群・第二群の老人は、依存状態のために周縁に位置づけられる。ところが、第三群あるいはアフリカ系アメリカ人は小規模なコミュニティを形成し、相互依存が文化的価値として周縁に位置しないサブカルチャーを有しているために、仮に依存状態になったとしても極端な周縁には位置づけられることはない。
 以上のことから分かるように、機能別に依存状態が分類されていたストライブらの図式とは異なった、文化的価値としての依存に基づいた分類が可能となっている。通常、比較文化研究における近代化理論では、近代化の初期では老人の社会的地位は低下するが、社会が脱工業化の段階に達すると老人の地位は再び向上していく(Keith 1985)というのが定説となっているが、本稿でアメリカ社会のそれを考察するにむしろ分裂化が進んでいるのではないだろうか。つまり、自立状態の保てる老人は成人の役割を維持することでコミュニティに吸収されているが、依存状態にある老人は文化的価値として周縁に位置し、終わらない死への移行を生き続けるほかないのである。これは老人への処遇が改善されようとも本質的な解決とはならないのである。

4.まとめ
 本稿では各居住形態群の老人の役割変化パターンを二者関係の変化から概観し、通過儀礼と互酬性の観点から分析を行ったが、本来は役割変化と二者関係の変化は個別に捉えるべきである。先行研究などでも両者を明確に区分されたものが少なく、利用できる資料その他の制約上から本稿では二者関係の変化から役割変化パターンを推測しているが、今後理論的に検証されていかなければならない。
 また、木下はロソーをはじめとする役割論にはもう一つの重要な理論的欠如が欠落しているとし、援助者としての老人の役割を理論化する必要性を指摘しているように(木下 1995)、従来の役割論のように老いに伴う役割喪失から社会適応やソーシャル・サポートへの議論へと横滑りしていくのではなく、むしろ老年期には役割喪失の影響を受けない(いわゆる「役割」には回収されない)役割を構築する必要があろう。つまり、最終のライフ・ステージにおける何かを共有することのない共同性を包摂する役割をいかに記述することが可能であるかという問いである。

文献
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天田城介(josukeamada.com)著書・論文など