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| ■001■ 事典執筆 「痴呆性老人」「問題行動」「夜勤」「燃え尽き症候群」「ヘルスケア」の5項目. 庄司洋子・木下康仁・武川正吾・藤村正之編.『福祉社会事典』 弘文堂.1998年年5月.(1997年7月執筆) |

天田城介(AMADA Josuke)
脱稿:1997.07 最終更新日:2004.04
※本ホームページの原稿は校正作業を行う前のものです。
■痴呆性老人 [英]the demented elderly
痴呆性老人とは,高齢期における脳の広範囲な器質的障害によって,一度獲得された知能が持続的・不可逆的に低下した状態の老人のことを意味するとされているが,厳密に言えば学術用語ではなく,医学用語である「痴呆(dementia)」の徴候を表出していると判断された老人といった意味で用いられる日常的な用語である。同様な意味を示す用語として,痴呆老人,痴呆症老人,呆け老人,等々があるが,近年では痴呆性老人対策,痴呆性老人専門施設等という呼称に代表されるように,痴呆性老人という用語が次第に一般化してきている。
一般的に,痴呆性老人には脳の器質的障害による記銘・記憶力,思考力,計算力,判断力,見当識の障害が観察され,不適切な言語・知覚・感情・行動が伴うことが多い。したがって,正常な老い(normal aging)に伴う生理的な知能低下とは異なり,経験全体の記憶障害が見られ,その症状の特徴は進行性であるとされている。
しかしながら,社会学的に言えば,痴呆性老人とは,社会的相互作用上で他者に不適切と判断される〈痴呆〉の徴候を表出することで「痴呆性老人」と名付けられた老人を指示するものであり,医学的に規定された「痴呆」概念とは異質な問題群を内在した概念になると言及可能であろう。一事例として挙げるならば,夜間に施設の外へ出て行こうとするような痴呆性老人の徘徊に対して施設職員として現実的対応を迫られるような場合には,大脳器質的障害といった定義はその意味性を無化されてしまうのであって,むしろ施設職員にとっては「問題行動」として把握されている現象がいかに構成されているかといった社会学・社会科学的な意味性を内包た概念として理解することが重要となる。
[主要文献]
Jaber F. Gubrium.Oldtimers and Alzheimer's : The Descriptive Organization of Senility,JAI Press,1986.
■問題行動 [英]troublesome behavior
問題行動とは,人間と人間の関わり,つまり社会的相互作用上において他者に「問題である」と判断される行動を表す日常的用語であり,類似的用語としては異常行動が挙げられる。「問題」とされる行動は、不適切な行動であれ,異常なそれであれ,両者の適切性−不適切性の基準,あるいは正常性−異常性の基準は他者により裁定されるという意味で社会学的な機制を内在しており,問題行動と呼ばれる時の「何を問題としているのか」は社会的に構成される事象である。
代表的な問題行動としては,青少年による非行,家庭内暴力,いじめ,薬物依存,自殺,不登校,自閉症,等の問題行動,または痴呆性老人による徘徊,夜間譫妄,幻覚・幻聴,不潔行為,弄火,攻撃的行為,等の行動や,知的障害児による癇癪,破壊的行為,自傷行為,等の行動,その他としては精神病患者,障害児・者による問題行動がなど挙げられる。
〈問題行動〉は大別して2つの視点から理解することが可能であろう。
一つは、斎藤が〈問題行動〉を起こしている当事者の多くが「自分の中に棲む他人の声に脅えています。自分の中の他人の声によって傷つき、この声の主である自分を憎み、抹殺しようとして自分を傷つけるところから、問題行動と呼ばれるものは始まる」と指摘するように、「自己の他者性」への理解である。
もう一つは、その社会的相互作用の場において我々がある行為を〈問題行動〉として構成している文脈に対する理解である。
そして、ケア従事者にとって重要なことはその〈問題行動〉をいかにして解読するかということであり,その方法をケア従事者間で模索する作業だといえよう。
[主要文献]
斎藤学『家族依存症―仕事中毒から過食症まで』誠信書房,1989.
木下康仁,『老人ケアの社会学』医学書院,1989.
内山喜久雄・坂野雄二編『問題行動の見方・考え方』実践・問題行動教育体系4巻,1991.
■夜勤 [英]night duty;a night shift
夜間勤務の略称を指す。労働基準法37条においては,午後10時から午前5時までの深夜に労働させた場合には深夜労働として,通常の労働時間賃金の計算額の2割5分以上の率で計算して割増された賃金(割増賃金),いわゆる夜間勤務手当を支払わなければならないとされている一方,夜勤の場合にはその労働の負担は重く,労働者の健康面の悪化と同時に生活の質の低下を招くことが多い過酷な労働状況である。具体的には,睡眠不足,不眠,極度の疲労感,睡眠不足による事故,そして労働者の家族への影響,等により労働者の生活の質が脅かされやすい。
以上の労働条件に加えて,特に病院や特別養護老人ホーム,それ以外の福祉施設等のヒューマン・サービスの現場においては,患者・入所者に対するケア従事者の定員は法規上一定の人員に規定されているために夜間においては過度に人員不足であることが多く,その上,夜間譫妄,夜間多尿症,夜間不安,徘徊,失禁,シーツ交換等の夜間特有の対応に追われ,その労働条件の改善は急務の課題にある。
看護婦の夜勤労働の場合には、1992年度の看護婦確保法の施行や診療報酬の看護料の引上げ等により多少改善されつつあるが,勤務体制の議論を含めて,今だその方向性を模索している段階にある。
また,1999年4月には,男女雇用機会均等法の見直しに絡んで,労働基準法の女子保護規定が一部を残して事実上廃止されるが,これを契機として,ジェンダーの問題を含め,生活の質の観点から夜間勤務における労働条件を今一度再考する必要が問われている。
■燃え尽き症候群 [英]burn-out syndrome
燃えつき症候群とは、遂行しなくてはならない一つの事象に対して、自己が過剰にコミットメントしていたために、それまでの意欲や情熱、動機づけを喪失した状態に突然陥り、いわば自己が燃焼し尽くしたかのような、身体的・精神的徴候を表出する状況を意味する。多くの場合、極度の疲労感や、抑鬱、喪失感、無気力などの徴候として現出され、それにより現在対処すべき出来事に取組むことができなくなる。
こうした燃えつき症候群がいかなる機制によって生起するかはいまだ明らかではないが、自己がある役割を過度に同一視することによって、つまり規範に規定されたある一つの役割と距離化が図れなくなると、その役割から以外に対する関心を喪失し、常時緊張状態に置かれたり、役割による達成の可否が自己全体の評価だと感じてしまうことによるためではないかと推察されている。
元々はバーンアウト・シンドロームの訳語であり、アメリカの精神分析医H.フロイデンバーガー(H.Freudenberger)が病院の看護婦やケースワーカー等のヒューマンケアに従事する者にこうした症候群が多く見られることを指摘したことから用いられるようになった。
現在では、医療・保健・福祉・教育等のヒューマンケアに従事する者に限定されず、長期にわたり高齢者を介護する家族介護者や、その他の多忙で没我的な生活をする者にも用いられるようになってきている。したがって、ここでの重要な点は、ストレスフルな状況の問題だけではなく、当事者における個別的な特性との相互規定的な影響を考慮せねばならない。
■ヘルスケア [英]health care
世界保健機構(WHO)では、ヘルスケアを、健康の維持・増進から診断、予防、治療、療法、リハビリテーション、メンタルヘルスまでをも含めた広義的な意味として用いており、わが国の保健と医療を包括した用語である。特に、世界中の人々の健康を維持し、増進するための基本原則を提示した1978年のアルマアタ宣言によってプライマリー(ヘルス)ケアの必要性が強調されてきている。
一方、近年では、ヘルスケア産業、あるいは健康産業と呼ばれる産業分野の隆盛から判断可能なように、ヘルスケア概念自体が従来のそれよりも一層広義の概念へと変化してきている。
こうした背景には、診療中心の医療体制に対する批判として保健と医療を統合するようなサービスが要請されるようになったこと、そして人々の健康に対する意識が「健康のための健康」とでも呼ぶべき、健康それ自体への自己目的化した志向性へと変容してきていることなどが挙げられる。
◆天田が独自に予備的に書いたもの(したがって、当然ながら事典には所収されておりません)
■エイジレスセルフ [英]ageless self
カウフマン(S.R.Kaufman)によって提示された概念であり,老い(aging)に伴う身体的・社会的変化に関わらず維持されるアイデンティティを意味する。彼女は,カリフォルニア州における都市在住の中流階級である70歳以上の老人60名を対象にした面接調査から,老人は高齢になり身体が脆弱化しても老いそれ自体において意味を見出すことはなく,自らの自己意識を一貫して維持していることをエイジレスセルフと概念化し,そして老人が自身について語る時にはこのエイジレスセルフが前面に押し出されることを明らかにした。
したがって,老いとは,過去の経験や構造的要因,価値,そして現在の自分自身が置かれた状況を不断に解釈しながら「折合いをつける(coming to terms)」ことによって,絶え間なく新たな自己像を生成し続けることに他ならないこととして位置づけられる。
理論的には〈文化〉と〈アイデンティティの発達〉の観点から検討を行っており,従来の老年社会学において研究が行われてきた社会的役割の継続,または新たな役割獲得,あるいは役割喪失,そのストレス等々のように老いに伴う変化に焦点を置くのではなく,また他方では,社会学における象徴的相互作用論のように,自己を不断に解釈する主体に置きつつもその変化に最大の比重を置く理論的パースペクティブとは異なり,老人が自らの人生を語るまさにその時に胚胎するライフ・ストーリーの〈テーマ〉に反映されるエイジレス・セルフを分析したことこそ彼女の理論的独自性であると指摘出来よう。
[主要文献]
Kaufman S.R.,The Ageless Self;Sources of Meaning in late life,The University of Wisconsin Press,1986.
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